この記事は、インフルエンサーマーケティングを発注する企業のマーケティング担当者に向けて、契約書に盛り込んでおきたい論点を「発注前のチェックリスト」として整理した実務ガイドです。法律の解説書ではなく、法務担当者や弁護士に相談する前に、マーケティング担当者自身が「何を決めておく必要があるか」を把握するための記事として構成しています。キャスティング会社を介する場合の三者関係の論点や、関連する法令の一般的な整理も扱います。

インフルエンサー施策は、最初は「メールで依頼し、何かあれば相談する」という進め方でも回ることがあります。しかし案件数や関わる人が増えるほど、口約束ではトラブルを防ぎきれなくなります。なお、本記事の内容は一般的な論点の整理であり、法的な助言ではありません。実際の契約書の作成・確認は、弁護士等の専門家にご相談ください。

目次
  1. なぜインフルエンサー契約書が必要か
  2. 必須項目1:業務範囲の明文化
  3. 必須項目2:報酬と支払い条件
  4. 必須項目3:投稿内容の確認権と修正対応
  5. 必須項目4:ステマ規制への対応条項
  6. 必須項目5:投稿後の維持期間と削除
  7. 必須項目6:炎上・トラブル時の責任分担
  8. 必須項目7:知的財産権と二次利用
  9. キャスティング会社を介する場合の三者関係
  10. 発注企業が押さえておきたい関連法令(一般論)
  11. 契約締結前のチェックリスト
  12. よくある落とし穴と対策

なぜインフルエンサー契約書が必要か

インフルエンサー契約書の役割は大きく2つあります。1つは、想定どおりの成果物が納品されることを担保すること。もう1つは、想定外のトラブルが起きたときの対応と責任分担を明確にすることです。「炎上したら誰が対応するのか」「投稿が一方的に削除されたらどうするのか」といった論点を事前に文書化していないと、いざというときに双方が困ることになります。

最初の発注時にしっかりした雛形を作っておけば、以降は案件ごとに条件を調整して使い回せます。国内のソーシャルメディアマーケティング市場は2024年に1兆2,038億円(前年比113%、サイバー・バズ/デジタルインファクト調べ)と拡大が続いており(インフルエンサーマーケティングの市場規模・統計データ集)、発注する企業にとっても、契約の型を早めに整えておく重要性は高まっています。

必須項目1:業務範囲の明文化

最も基本的でありながら曖昧になりがちなのが業務範囲です。「Instagramで投稿してもらう」だけでは不十分で、次の粒度まで落とし込むことが望ましいです。

ここが曖昧だと、納品後に「期待していた内容と違う」という認識のずれが生じます。

必須項目2:報酬と支払い条件

金額そのものより、付帯条件で認識がずれることが多い項目です。最低限、次の内容を文書化してください。

項目記載したい内容
金額税抜・税込の別、提供物の扱いを含むか
支払いタイミング投稿完了から何日以内か、締日と支払日
支払い方法銀行振込など
キャンセル時の取り扱い素材提供後のキャンセルで費用が発生するか
追加投稿時の単価当初の契約を超える依頼をする場合の単価

特に「提供した商品を報酬の一部として扱うか」は明示しておくと、双方の認識がそろいます。提供品や報酬の税務上の扱いは状況によって異なるため、最新の制度は国税庁・税務署や税理士等の専門家にご確認ください。

必須項目3:投稿内容の確認権と修正対応

企業側には「投稿前に内容を確認したい」というニーズがありますが、インフルエンサー側にとっては修正対応の負担が増えます。双方の合意ラインを契約書で決めておくことが大切です。

どの形でも、「修正依頼から再提出までの日数」「公開予定日から逆算したスケジュール」を明記しておくと、進行管理がしやすくなります。

必須項目4:ステマ規制への対応条項

2023年10月から、ステルスマーケティングは景品表示法の不当表示として規制の対象になりました。規制の対象となるのは広告主である企業であり、インフルエンサー任せにせず、契約書で表記ルールを担保しておくことが重要です。

注意

「#PR」「#提供」等の表記をインフルエンサー個人の判断に任せると、表記漏れがあった場合に企業側の問題になり得ます。契約書で表記を義務化し、表記漏れが見つかった場合の対応手順と責任分担を定めておくことが、リスク管理として有効です。

契約書に盛り込む内容の例は次のとおりです(文言は一例です。実際の条文は専門家にご確認ください)。

ステマ規制のルールはステマ規制完全ガイド|PR表記のルールで整理しています。最新の運用基準は消費者庁の公表資料をご確認ください。

必須項目5:投稿後の維持期間と削除

見落とされやすいのが、「投稿後にインフルエンサーが任意に投稿を削除できるか」という論点です。何も決めていないと、PR投稿が短期間で削除されてしまうこともあり得ます。

契約書では、「投稿を維持する期間」と「その期間内に削除する場合は事前に企業へ通知すること」を定めておくのが一般的です。維持期間の長さは、施策の目的や報酬とのバランスで双方が合意して決めます。あわせて、炎上時などに企業側から削除を求める場合の条件も定めておくと安心です。

必須項目6:炎上・トラブル時の責任分担

インフルエンサーの発信やフォロワーの反応によって、ブランドが想定外の批判にさらされる可能性があります。

必須項目7:知的財産権と二次利用

インフルエンサーが制作した投稿(写真・動画・キャプション)の著作権は、一般に制作者であるインフルエンサー側にあると考えられます。企業がこれらを自社サイトや広告、印刷物で使いたい場合は、契約で利用の範囲を取り決めておく必要があります。

人物が写っている場合は、肖像の扱いについても確認が必要です。UGCとして商品ページや広告で使う想定がある場合は、契約段階で利用媒体・期間・改変の可否を明示してください。後から利用範囲を広げると、追加の費用と交渉が必要になります。UGC活用の全体像はUGCとは?定義と全体像、二次利用の一般的な考え方はUGCの著作権・二次利用ガイドで解説しています。

キャスティング会社を介する場合の三者関係

キャスティング会社を通じて起用する場合、契約関係は「企業とキャスティング会社」「キャスティング会社とインフルエンサー」の二本立てになることが多く、企業とインフルエンサーの間に直接の契約がない場合もあります。この場合、企業が求める条件がインフルエンサーまで確実に伝わっているかが論点になります。

論点確認したいこと
条件の引き継ぎ企業とキャスティング会社で決めた条件(PR表記・維持期間・二次利用など)が、インフルエンサーとの契約にも反映されているか
二次利用の権利企業が素材を使う権利を、誰から、どの範囲で得るのか
表記漏れ時の対応表記漏れを見つけた場合に、誰がインフルエンサーへ連絡し、どの期限で修正するのか
トラブル時の窓口炎上や削除が発生した場合の連絡経路と、判断の主体
支払いの流れインフルエンサーへの報酬支払いの責任を誰が負うか

三者関係では、「キャスティング会社がインフルエンサーと結ぶ契約の主要条項を確認させてもらえるか」を事前に聞いておくと安心です。キャスティング会社の選び方はインフルエンサーキャスティング会社の選び方をご覧ください。

発注企業が押さえておきたい関連法令(一般論)

インフルエンサー施策の契約に関わる主な法令を、一般論として整理します。いずれも個別の状況によって判断が変わるため、具体的な対応は弁護士等の専門家や、所管省庁の公表資料でご確認ください。

法令・制度関わる場面(一般論)契約で意識したいこと
景品表示法(ステマ規制を含む)PR表記、商品の効果や価格の表示表記ルールの義務化、表現の事前確認
医薬品医療機器等法(薬機法)化粧品・健康関連商品などの効果効能の表現使ってはいけない表現のガイドライン提示
著作権法・肖像に関する権利投稿素材の二次利用、第三者の写り込み利用範囲・期間の明記、写り込みの確認
フリーランスとの取引に関するルール個人のインフルエンサーに業務を委託する場合取引条件の明示、支払期日の設定などについて、最新の制度を確認
個人情報保護法インフルエンサーの連絡先・口座情報の管理取得した情報の管理方法

特に、個人で活動するインフルエンサーと直接取引する場合は、フリーランスとの取引に関するルールの対象となる可能性があります。対象となる条件や義務の内容は制度の運用によって更新されることがあるため、所管省庁の公表資料や専門家に最新の情報をご確認ください。

契約締結前のチェックリスト

契約書の案ができたら、締結前に次の項目を確認してください。法務担当者や弁護士に確認を依頼する際にも、このリストを添えると論点が伝わりやすくなります。

区分チェック項目
業務範囲投稿の種類・本数・期間・必須要素が明記されているか
報酬税抜/税込、提供品の扱い、支払期日、キャンセル時の扱いが明記されているか
確認・修正事前確認の有無、修正回数、再提出の期限が明記されているか
PR表記表記の義務、表記方法の基準、漏れた場合の対応が明記されているか
維持・削除投稿の維持期間、削除時の事前通知、企業からの削除依頼の条件
トラブル対応一次対応の担当、緊急連絡先、削除判断の主体
権利二次利用の媒体・期間・改変の可否、肖像の扱い
表現業種ごとの規制に沿った表現ガイドラインを渡しているか
三者関係キャスティング会社経由の場合、条件がインフルエンサーまで反映されているか
契約の見直し継続契約の場合、条件を見直すタイミングを定めているか
専門家確認法務担当者または弁護士等の確認を経ているか

よくある落とし穴と対策

まとめ

インフルエンサー契約書は、双方が安心して仕事をするための約束事を文書にしたものです。業務範囲・報酬・確認と修正・PR表記・維持と削除・トラブル対応・二次利用の7項目を軸に、キャスティング会社を介する場合は三者間で条件が引き継がれているかを確認することが大切です。

関連する法令は複数あり、制度も更新されることがあります。本記事のチェックリストで論点を整理したうえで、実際の契約書は法務担当者や弁護士等の専門家に確認してもらうことをおすすめします。SIGNAL BASE では、ステマ規制への対応や二次利用の範囲などを含む契約書テンプレートを用意し、発注企業の契約まわりの負担を軽くする体制を整えています。